ホームへ

「キャロルに関する雑学帳」へ戻る

ネズミの尾話


 『不思議の国のアリス』で、ネズミがアリスに身の上話をする場面は、丁度、本文がネズミの尻尾のような形になっている。そこで、「あんたはまじめに聞いていないな」とネズミに言われたアリスが「確か五回目の曲がり目に……」と答えることになる。ただ、このネズミの「尾話(おはなし)」が尻尾の形になっているようには見えない訳書も少なくない。何ページかに亘っていて、単に行が上がったり下がったりしているようにしか見えないものが、残念ながら存在する。この部分、アリスがネズミの尻尾を気にしていたところが、ネズミの身の上話が5回曲がった尻尾の形に見える、ということなのに残念なことではある。
 さて、このネズミの「尾話」、英語ではちゃんと韻を踏んだ詩になっている。試みに、これを普通の詩のように韻を踏んだところで改行してみると、

"Fury said to a mouse,
That he met in the House,
'Let us both go to law: I will prosecute you. -

Come, I'll take no denial:
We must have the trial;
For really this morning I've nothing to do.'

Said the mouse to the cur.
'Such a trial, dear Sir.
With no jury or judge, would be wasting our breath.'

'I'll be judge. I'll be jury,
said cunning old Fury:
'I'll try the whole cause, and condemn you to death'"

 となり、各連のそれぞれ1行目と2行目が韻を踏み、1,2連と3,4連のそれぞれ3行目が韻を踏んでいる。そして、この詩を見て、何か気付かないだろうか? そう、この詩自体が尻尾の長いネズミの形をしているのである。各連1匹、都合4匹のネズミ。キャロルはネズミの尻尾の形に作った詩の中に、もう一つ、尻尾の長いネズミを隠していたのである。
 この発見は、近年、アメリカの高校生が発見したもの(New York Times 1991年5月1日号でも紹介された)。まだまだ『アリス』に隠された「しかけ」はあるものと思われる。

(追記 2000.6.17)
 上記の発見について、最初「アメリカの中学生」と書いていましたが、門馬義幸「キャロルよもやま話」(日本ルイス・キャロル協会会報『MISCHMASCH』(4) 7-19, 2000)により、発見者が二人の高校生であることが解りましたので訂正しました。

「キャロルに関する雑学帳」へ戻る