ホームへ
第一席「兎穴に落ちまして」へ
「『不思議の国のアリス』上方落語風」目次へ
「ルイス・キャロルのページ」へ


すべては金色の昼下がりのこと
 ゆつくりと川面を滑り
オール持つ二人の腕は未熟
 小さき腕もて懸命に
まねごとながら小さき手
 漂う水先を導かむ

むごたらしきかな三人は
 かくこの時 夢のやうなる空の下
話をせよと求めやる
 か細き息は羽毛さへ そよがすことも出来ぬのに
されど哀れなこの声は
 三人(みたり)の声に抗へやうか

王さながらに上の娘(こ)は
 話をせよとのたまへり
優しき声は次の娘(こ)か
 奇妙(けぶ)なることを入れよとぞ
かく間にも下の娘(こ)は
 始終半畳を入れたがる

ほどなく静寂(しじま)が訪れき
 話を求むるその中で
夢の子の通り過ぐるのは
 不思議で野放図 新しき国
鳥や獣と話をし
 半ば真実(まこと)と信じやる

そして話の種が尽き
 夢の井戸も汲み枯れて
話に疲れぼんやりと
 話題を他に転ぜむと
「あとはこの次」 「今ぞこの次」
 楽しき三人(みたり)の声ぞ上がる

不思議の国はかく生まれ
 かくゆるゆると次々と
古きことどもを打ち出(いだ)し
 今や話は終わりしに
家路を漕ぐは 楽しき仲間
 そは夕暮れの空の下

アリスよ 子供のお話を
 受けて優しき手をもちて
置けよ幼時の夢の綾なせる
 思ひ出といふ神秘の場所へ
遙か遠くで摘まれたる
 巡礼の萎れし花の輪のごとく


第一席「兎穴に落ちまして」へ
「『不思議の国のアリス』上方落語風」目次へ
「ルイス・キャロルのページ」へ