オンライン復刻Recollections of "Lewis Carroll"


解 題

 ここに公開する画像はStrand Magazine 1908年1月号に掲載されたハリー・ファーニス(1854-1925)の回想Recollections of "Lewis Carroll"の全文である。ファーニスは『シルヴィーとブルーノ』および『シルヴィーとブルーノ完結編』のイラストでキャロルと数年に亘り共同作業をした。ただ、キャロルとの関係は必ずしも良好とは云えなかった。
 この回想の掲載された前年の1907年に『不思議の国のアリス』の版権が切れ、アーサー・ラッカムやチャールズ・ロビンソンを含む多くの画家のイラストによる『不思議の国のアリス』が出版されている。いわば、そのアリス・ブームの中でファーニスの寄稿したのがこの回想ということになる。内容は、ルイス・キャロルという作家と、テニエルのイラストについて高い評価をするとともに、チャールズ・ラトウッジ・ドジスンという人物に対しての、ほとんど悪口と云ってもよい批判をしている。現在流布している、ユーモアあふれる作品を書く作家ルイス・キャロルと気難しく神経質な数学者ドジスンという二つの側面がキャロルにはあったという「常識」を広めた第一はこのファーニスの回想であったと思われる。あるいは、キャロルとテニエルの仲が悪かったという「常識」にも、この回想におけるファーニスの「証言」が一役買っていたであろう。しかし、キャロルと仲の良くなかったファーニスが、一方の当事者が死んで反論できなくなった後に書いたものである以上、ファーニス自身のフィルターを通したキャロル像であることは留意すべきであろう(話を面白くするためであろうか、ファーニスの語るドジスンはいささか戯画的ですらある)。我々の常識に照らし合わせても、人間関係のトラブルで一方のみに問題のある場合は少ないのだから。
 やや私憤が混じった感のあるドジスン評に比べ、キャロルについての評価は高い。特に『アリス』の本文とテニエルのイラストの関係で、もしテニエルのイラストがなければ、『アリス』がここまでの 名声を博すことはなかったのではないかとの指摘は、様々なイラストでの「新ヴァージョン」が出回り始めた時期の証言として貴重であろう。
 いろいろ割り引いて読まなければいけないにしろ、キャロルに直に接し、一緒に仕事をした人間の貴重な証言ではある。

お詫び
 本当は原文の画像公開だけでなく訳文も載せるべきなのでしょうが、本文にファーニスの悪意を感じるところも多々あり、どうしても訳す気にはなれませんでした。お詫びします。

画像について

 画像はStrand Magazineの該当記事を写真撮影し、余白を一部トリミングして公開した。本文のみならず、著者自身の手になるイラストも資料的価値があると考え、敢えてスキャナを使用せず写真とした。


著作権について

 ハリー・ファーニスは1925年に没しており、本文・イラストともに著作権は切れている。