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『スナーク狩り』人名事典
凡例:
¶本事典は、『スナーク狩り』において、作者による序文を除く本文中に登場、あるいは作中で言及された人物・生物について日本語の訳名で五十音順に並べ、解説を施したものである。
¶見出し語は訳名、原文、登場した(言及のある)章の順で記載した。
¶登場人物/生物の訳語は高橋康也訳に従った。
¶嵐山光三郎訳『蛇姫様参り』における登場人物の訳語は、ルビに振られている原文ではなく、訳語を日本語で読んで参照用見出しを立項した。
¶第二の発作/歌において「乗組員一同」(crew)、第三・五・七の発作/歌において「一同」(they)、第六・八の発作/歌において「みんな」(they)として、狩りの一行がまとめて言及されているが、これらについては、本事典では登場・言及されたとはしていない。
- 赤丹銀二(嵐山訳) →ビリヤード・マーカー
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- 網太郎(嵐山訳) →ボンネット・メーカー
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- 板前(嵐山訳) →ベイカー
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- 板前の叔父(嵐山訳) →ベイカーの叔父
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- 板前の父(嵐山訳) →ベイカーの父
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- 板前の母(嵐山訳) →ベイカーの母
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- 舵取り(helmsman)2
- スナーク狩り一行の船員。船長であるベルマンの矛盾だらけの指示に悩まされる。キャロルによる前書きによれば、主に舵取りをしているのはブーツであるとのこと。(→ブーツ、ベルマン)
- 看守(jailer)6
- バリスターの見る夢に登場。判決の後に現れ、被告の豚がすでに死んでいることを涙ながらに報告する。(→証人たち、スナーク、陪審員たち、バリスター、豚)→看守の絵
- 希望(hope)3,4,5,6,7,8
- スナークを追い求めるのに必要なものとしてベイカーの叔父が話す。狩りの一行もこれとともにスナークを求めるのだが、ヘンリー・ホリデイの挿絵では、この「希望」が擬人化され、碇を肩に担いだ若い女性として描かれる。これは、図像学による「希望」の表現法を踏襲している。(→注意、ベイカーの叔父)→希望の絵
- 気味の悪い奇怪な生き物たち(strange creepy creatures)5
- スナークの島に棲む生物。ビーバーがブッチャーに授業を受けている時、周りに出現する。(→ビーバー、ブッチャー)→生き物の絵(多数ある内の一つ)
- 沓掛宿の時次郎(嵐山訳) →ブーツ
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- 靴屋(嵐山訳) →ブーツ
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- ゴム犬(嵐山訳) →バンダースナッチ
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- 裁判官(嵐山訳) →判事
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- ジャブジャブ(Jubjub)4,5
- ジャブジャブあるいはジャブジャブ鳥。スナークの島に棲む怪鳥。同じキャロルの「ジャバーウォックの歌」でも言及される。探索に出たブッチャーとビーバーは、ジャブジャブの鳴き声らしきものを耳にする。ブッチャーによればジャブジャブは激しい鳥で、服装の趣味は無茶苦茶、一度会った友人の顔は忘れず、賄賂には見向きもしない。慈善事業の皮膚もする。味は羊肉や牡蠣、卵より美味。いろいろな料理法があるが、対称形を崩さないように料理するのが肝心であるとのこと。(→バンダースナッチ、ビーバー、ブッチャー)
- 十二指鳥(嵐山訳) →ジャブジャブ
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- 商左衛門(嵐山訳) →ブローカー
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- 証人たち(Witnesses)6
- バリスターの夢に登場。豚小屋から脱走した豚についての証言をする。(→看守、スナーク、陪審員たち、バリスター、判事、豚)
- 慎重 →注意
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- 鈴之助(嵐山訳) →ベルマン
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- スナーク(Snark)1,2,3,4,5,6,7,8
- ベルマンたちの狩りの対象。スナークには五つの特徴がある。(1)味は大味でうつろ、鬼火に似た香りがする。(2)朝寝坊の癖がある。(3)冗談に対する反応は鈍い。(4)海水浴用更衣車(Bathig machines)に目がない。(5)野心。スナークには羽があって噛みつくものと髭があって引っかくものがいる。ベイカーの叔父によれば、スナークは野菜を食べ、マッチを擦る役に立つとのこと。探すには指抜きと注意を駆使し、フォームと希望をもって探す。鉄道株で命を脅すことができ、微笑と石鹸で金縛りになる。普通、スナークは無害だが、スナークの中でブージャムに出会ったらベイカーは消えてしまうという。バリスターの夢の中で、スナークは豚の脱走裁判における弁護人として登場するが、途中から判事、陪審員の役割まで引き受けてしまう。弁護人として被告の豚の無罪を主張しながら、最後には判事として有罪を申し渡す。物語の最後でベイカーが出会ったスナークはブージャムだった。(→バリスター、ブージャム、ベイカー、ベイカーの叔父、ベルマン)
- 銭貫(嵐山訳) →バンカー
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- 調停屋(嵐山訳) →バリスター
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- 注意(Care)1,3,4,5,6,7,8
- スナークを追い求めるのに必要なものとしてベイカーの叔父が話す。狩りの一行もこれとともにスナークを求めるのだが、ヘンリー・ホリデイの挿絵では、この「注意」が擬人化され、うつむいた女性として描かれている。(→希望、ベイカーの叔父)→注意の絵
- 地を這う奇妙な生き物(嵐山訳) →気味の悪い奇怪な生き物たち
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- 肉屋(嵐山訳) →ブッチャー
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- 陪審員たち(Jury)6
- バリスターの夢に登場。「評決」という語の綴りが難しいと、評決を拒否し、代わってスナークに評決を委ねる。有罪の評決が下されるや呻き、中には失神する者も出た。判決が決まると喜んで歓声を上げた。(→看守、証人たち、スナーク、バリスター、判事、豚)→陪審員たちの絵
- バリスター(Barrister)1,4,6
- スナーク狩りの一員。一行の紛争処理を受け持つ。皆が狩りの準備に怠りない中、ビーバーだけがレース編みを続けているのを見て、なんとかやめさせようとするが失敗する。豚の脱走裁判の夢を見るが、その中ではスナークが弁護人となっていた。(→看守、証人たち、スナーク、陪審員たち、判事、ビーバー、豚)→バリスターの絵
- バンカー(Banker)1,4,7
- スナーク狩りの一員。高額の契約金で狩りに参加した。狩りの一行の現金を管理している。狩りの準備では未記入小切手に裏書きし、ばら銭の銀貨を紙幣に替える。ヘンリー・ホリデイの挿絵では、バンカーは望遠鏡と音叉(tuning fork、つまりフォーク)を手にしている。スナーク探索の途中でバンダースナッチに襲われ、発狂する。(→バンダースナッチ)→バンカーの絵
- 判事(Judge)6
- バリスターの夢に登場。豚の脱走裁判を行うが、訴訟総括の経験がないと、弁護人のスナークに総括を依頼する。有罪の評決を聞くや興奮して口がきけなくなり、判決もスナークが行うこととなる。その判決が有効であるか疑義を呈したが、被告の豚はすでに数年前に死亡していた。それを聞き憮然として退廷。(→看守、証人たち、スナーク、陪審員たち、バリスター、豚)→判事の絵
- バンダースナッチ(Bandersnatch)7
- スナークの島に棲む生物。「ジャバーウォックの歌」にも言及があり、鏡の国の白の王も言及している。動きは素早く、首を伸ばすことが出来る。バンカーを襲い、攫った。(→ジャブジャブ、バンカー)
- ビーバー(Beaver)1,4,5,6,(7),8
- スナーク狩りの一員。代名詞は中性の「it」が使われているが、女性であるような印象を与えている。甲板を散策したりレース編みしたりしてはいるが、船を難破から救ったことが一度ならずある。皆で狩りに出たときもレース編みをやめず、バリスターに注意される。ヘンリー・ホリデイの挿絵では、この場面で顕微鏡を持っている。ビーバーしか殺せないと云っていたブッチャーを当初は避けていたが、スナーク探索でたまたま同じ方角を行くことになった際、ジャブジャブらしき声を聞いたのをきっかけに算数と博物学を教わり仲良くなる。第七の発作/歌のヘンリー・ホリデイの挿絵では、発狂したバンカーを、本文に登場しないビーバーとブッチャーがベルマンとともに見守っている。(→気味の悪い奇怪な生き物たち、ジャブジャブ、バリスター、ブッチャー)→ビーバーの絵
- ビリヤード・マーカー(Billiard-marker)1,4
- スナーク狩りの一員。自分の取り分以上をくすねかねない曲者。狩りの際には自分の鼻先にチョークで印をつけていた。→ビリヤード・マーカーの絵
- ブージャム(Boojum)2,3,8
- スナークの一種。ベイカーの叔父は、ベイカーの出会うスナークがブージャムなら、ベイカーは消えてしまうと警告した。その警告通り、ブージャムに出会ったベイカーは消えてしまった。(→スナーク、ベイカー、ベイカーの叔父)
- ブーツ(Boots)1,4
- スナーク狩りの一員。狩りに際してはブローカーと一緒に鋤を研いでいた。キャロルによる前書きによれば、船の舵取りは主にブーツが行っていたとのこと。これは靴磨きのことでベイカーにうるさくいわれるのを避けるためであるらしい(→舵取り、ブローカー、ベイカー)
- 豚(pig)6
- バリスターの夢に登場。豚小屋を脱走した罪で裁かれる。弁護人スナークが最後には裁判すべてを仕切った上で有罪の判決を下したが、豚は既に死んでいた。(→看守、証人たち、スナーク、陪審員たち、バリスター、判事)
- 豚猫(嵐山訳) →ビーバー
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- ブッチャー(Butcher)1,4,5,(7),8
- スナーク狩りの一員。「すこぶるつきの阿呆」で、スナークのこと一つしか頭にない。みなからは「うすのろ」と呼ばれている。肉屋(ブッチャー)といいながら、実際に殺せるのはビーバー(beaver、乗組員たちと同様、Bの頭文字)のみで、そのため、当初はビーバーに避けられていた。狩りの際にめかし込んで、晩餐会に繰り出す気分だといったがためにベルマンに怒鳴られる羽目になる。スナーク探索でたまたまビーバーと同じ方角を行くことになったが、探索途中ジャブジャブらしき声を聞き、その時ビーバーに算数と博物学を教えたのがきっかけで仲良くなる。第七の発作/歌のヘンリー・ホリデイの挿絵では、発狂したバンカーを、本文に登場しないビーバーとブッチャーがベルマンとともに見守っている。(→気味の悪い奇怪な生き物たち、ジャブジャブ、ビーバー)→ブッチャーの絵
- ブローカー(Broker)1,4
- スナーク狩りの一員。一行の財産査定を受け持っている。一般に日本語でいうブローカーとは違い、ここでのブローカーは抵当物件の査定・販売業者のこと。狩りに際してはブーツと一緒に鋤を研いでいた。(→ブーツ)→ブローカーの絵
- ベイカー(Baker)1,2,3,4,8
- スナーク狩りの一員。乗船の際に自分の荷物四十二箱を積み忘れ(42は、キャロルの好きな数字で、様々な作品や場面に出てくる)、しかも自分の名前まで忘れてしまった。そのため一行からは「おい!」とか「名無しの権兵衛」とかいろいろな呼ばれ方をする。勇気はベルマンも認めるところ。ただしベイカー(パン屋)といいながら、焼けるのはウェディング・ケーキ(bridecake、登場人物同様、頭文字がBである)のみ。乗船時には上着七枚を重ね着し、靴(boots、これも頭文字はB)を三足重ね履きしていた(上着とブーツの数を掛け算すると7×3×2=42となる)。出発前に叔父から、ブージャムに出会ったが最後消えてしまうと警告を受ける。そして、その警告通りブージャムに出会い、消えてしまう。叔父からの警告をベイカーはベルマンにヘブライ語、オランダ語、ドイツ語、ギリシア語で説明していたが、ベルマンが英語しか知らなかったため、理解されていなかった。なお、ベイカーが自分の名前を忘れたとあるように、ベイカーやベルマンというのは固有名詞ではなく職業(あるいは属性)を表している。本文ではベルマンと表記されている登場人物も、実際にはちゃんと名前があるということになる。(→ブージャム、ベイカーの叔父、ベイカーの父、ベイカーの母)→ベイカーの絵
- ベイカーの叔父(Baker's uncle)3
- ベイカーの身の上話に登場。ベイカーの(本人が忘れてしまった)名前は、この叔父にちなんでつけられた。狩りに出発する日のこと、甥であるベイカーとの別れ際にスナークについて忠告をする。その忠告の中で、もしスナークがブージャムであったらベイカーは消えてしまうと警告した。その警告通り、ブージャムと出会ったベイカーは消えてしまう。(→希望、スナーク、注意、ブージャム、ベイカー)→ベイカーの叔父の絵
- ベイカーの父(Baker's father)3
- ベイカーの身の上話の中に登場。貧なれど純であるとまでベイカーが云いかけたところでベルマンに話を遮られる。(→ベイカー、ベイカーの叔父、ベイカーの母)
- ベイカーの母(Baker's mother)3
- ベイカーの身の上話の中に登場。貧なれど純であるとまでベイカーが云いかけたところでベルマンに話を遮られる。(→ベイカー、ベイカーの叔父、ベイカーの父)
- 屁の河童(嵐山訳) →ブージャム
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- 蛇姫様(嵐山訳) →スナーク
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- ベルマン(Bellman)1,2,3,4,5,6,7,8
- スナーク狩り一行の隊長であり船の船長。隊員の信任は厚い。この物語の中ですべての発作/歌に登場しているのはベルマンのみ。主役の一人であると同時に、登場人物列伝の狂言回しでもある。『スナーク狩り』は、マロリーの『アーサーの死』などと同様に、第一・第二の発作/歌と第八の発作/歌による「狩り」の枠組みの中に各登場人物(ベイカー、ビーバー、ブッチャー、バンカー)の列伝を配した形になっている。その列伝を横断し、一つの物語として束ねる役をベルマンが担っている。ヘンリー・ホリデイの挿絵ではベルマンは本人の姿、あるいは持ち物のベルとして描かれている。ベルマンの登場しないものは二枚のみ。一つは第一の発作/歌の中のビーバーとブッチャーが描かれているもの、もう一つは第二の発作/歌の中の陸地の描かれていない海図である。海図はそもそも誰の絵も出しようがない以上、一枚を除き、表紙、裏表紙、口絵を含むすべての絵にベルマンは登場していることになる。→ベルマンの絵
- ボンネット・メーカー(Maker of Bonnets and Hoods)1,4
- スナーク狩りの一員。被り物作りの専門家。狩りの際にはボウ(bow、弓とボウ・タイ両方の意味がある。このbowも登場人物同様、頭文字がBである)の新しいデザインを考えていた。→ボンネット・メーカーの絵